一杯のコーヒー マヌケなヒーロー達R
キルレシアンはネザエイシュアンに訳わかめな理由で母星を破壊され、同胞の多くを失った者達が復讐に駆られ集まった集団。
そう言われたらそれに近い面は、確かにある。
ただ彼等の多くは復讐よりも新しく暮らす惑星を探し、それでも安住する地すら見つけられず。
理解のない者達から何度も傷つけられ、結果同じ痛みを、傷を持つ者達は寄り添い合って生きていくようになった。
まだシオン様達がアレイムに来る前は、キルレシアン達は復讐鬼の集まりというイメージが強く、また恨み骨髄に徹すな連中が前面に出ていた。
ネザエイシュアンが襲撃するまでキルレシアンを嫌っていた星の連中も自分達が同じ目に遭わされ、流浪の民となったときキルレシアンに加わった。
ネザエイシュアン。
それはキルレシアンだけじゃなく、他の星からも恨みの名、憎しみの名だった。
だから前にも言ったとおり、ネザエイシュアンから逃げてきた者がそこで殺されたり、キルレシアンに引き渡されても仕方がない空気があった。
あれはシオン様がアレイムを復活させる手助けをし、他の星も巡る旅も終え、家族とようやく落ち着いた日々を送っていた頃だったという。
ネザエイシュアンで暮らしていたバーソロミュー青年とその妹リーザは、キルレシアンの襲撃で故郷と両親を失った。
『お前達は俺達に同じことをやったんだ!』
両親の遺体を前に震えるしかなかった兄妹に、あるキルレシアンはそう言いはなった。
両親を失った兄妹は兄の小型艇で母星を脱出し、別の星から星へ流離う旅を送った。
どこにも定着できなかったのはネザエイシュアン出身と知れば、速攻で街の人々が殺しにやってきたからだ。
生まれ育った星を離れ、初めて知った母星の姿と真実。
母星を離れたとき幼かった妹も17歳になった頃、ようやく安住の地を見つけたかと思ったが、そこでもやはりネザエイシュアンから来たとばれてしまった。
彼が家に帰ってきたとき、家の中は滅茶苦茶で妹の姿はどこにもなかった。
『ああ。お前の妹なら、キルレシアンに引き渡したよ』
彼等に引き渡される=処刑されてもおかしくないだった。
バーソロミュー青年は道行く人々に誰か、誰か妹を助けてくれと叫んだ。
しかしネザエイシュアンの人間?ああ、殺されても仕方がないよなという、あまりにも冷ややかな反応だけが返ってきた。
彼は道行く人の服を掴み、追い払われ、蹴飛ばされても助けを求めた。
やがて闇雲に掴んだ相手が彼の手を振り払わず、しかも彼に優しく声をかけてきたじゃないか。
『どうした?なにか困りごとでもあるのか?』
それがシオン様との最初の出会いだった。
バーソロミュー青年はシオン様に、妹がキルレシアンに連れて行かれたこと。
自分達兄妹はネザエイシュアン出身だから、こんな目に遭っても仕方がないが、俺はどうなってもいいから妹は助けて欲しいと懇願した。
『ふむ。事情は分かった。じゃあ、行こうか』
「はい?」
バーソロミュー青年はシオン様の言うとおり、宇宙空間に小型艇を進めた。
『妹さんはあそこにいる。大丈夫だよ、無事だ』
やがて見えてきた宇宙船団にバーソロミュー青年はびびったが、気にするなとシオン様は船団の中に入って行かせた。
そこにいたのは強面、凶悪面、多種多様な見たことのない宇宙人達がいた。
彼等がじろっと見ただけで、バーソロミュー青年はシオン様の後ろに隠れたぐらいだ。
『なんだよ、優男。俺達になにか用か!』
『ここにリーザという名の娘がいるだろう』
『いるがなんだ。お前の女か』
『違います。正確には彼の妹さんですよ』
多種多様な目が自分に向けられ、バーソロミュー青年はさらにびびった。
『お前、いったい何者』
リーダー格らしいヤツが青竜刀みたいなでっかい刀を、シオン様に突き付けながら問うた。
『さっきお前達が来たとき、あらゆる迎撃システムがうんともすんとも言わなくなった』
じゃあ攻撃して来ないじゃなく、攻撃できなかったのか。
『お前、いったいどこの生まれだ』
『今はサルバシオン太陽系第3惑星アレイムに、家族と暮らしています。元はエイゼルリート太陽系惑星パライオン出身だけどね』
あのパライオン出身か、あの悲劇の星の生き残りがいたのか。
あの星の人間は皆、不思議な力を持っていたと聞くから、そうかそれで納得だという声が聞こえてきた。
『私はオブレール家最後の、生き残りの1人なんだ』
その名前に今度はさっきのよりもでかく、キルレシアン達はどよめいた。
『なぜネザエイシュアンの民に、お前は手を差し伸べる。そいつらの星の人間はお前から、たくさんのものを奪ったのだろう』
『憎くはないのか?奪った側の人間を。なんの落ち度のない者達の生命を、星を奪ったヤツらの同胞なんだぞ』
それでバーソロミュー青年は彼もまた、母星の被害者の1人だと知った。
ならここに俺を連れてきたのは、彼等に俺を引き渡すためかとそう思ったときだった。
『私は魔法使いだから。困っている者がいれば、それが誰であろうと手を差し伸べる』
それにと彼は言った。
『愛する人たちが最後に言った、復讐はするな。その遺言ぐらいは守ろう、それが永遠に出来ない親孝行だと思って生きてきたんだ』
そこに至るまで・・・と彼は複雑な笑みを見せたが。
『だから、私にはお前達の気持ちも分かるが。この青年に妹を帰してやって欲しい』
静かな時間が流れた。
『・・・わかった。おい、娘を連れてこい』
奥からバーソロミュー青年には見覚えるのある娘が、背中を突き飛ばされるようにして出てきた。
『お兄ちゃん!』
『リーザ!』
兄妹は互いの無事に抱き合い、涙を流して喜んだ。
『ありがとう』
『よせやい。礼なんざ、照れるだけだ』
じゃあ帰ろうかとシオン様はバーソロミュー青年とリーザに言い、その前にとまた振り返った。
『なにか困りごとがあったら、いつでも私の名前を呼ぶといい。私は魔法使いだから、どこにいてもすぐに駆けつけるから』
『はん!魔法使い様に助けなんざ求めることは、この先ずっと無いぜ』
バーソロミュー青年は背後から彼等が攻撃するんじゃないか、されてもおかしくないと終始びくついていた。
しかし彼が運転する小型艇が船団を離れても、見る見るうちに遠くなっていっても、攻撃は一切されなかった。
『ところで、この先どうするんだ?』
兄妹は顔を見合わせた。
もう今までいた星には帰れないし、かといって行く当てもない。
『なら、サルバシオン太陽系に来るといい。あそこは星が10在るから、どこかが気に入ると思う』
『俺達がネザエイシュアン出身でも、あなたは俺達に優しくしてくれるのですか』
するとシオン様はふふっと笑った。
『言っただろう。私は困っている人を助ける、善き魔法使いだって』
シオン様が家族と暮らすアレイム・アザナンの村の人々は、兄妹を温かく出迎えてくれた。
『おーい。お前達が暮らす家が来たぞ』
なんと村の一角に兄妹で住むための家がまるごと運ばれ、家の中に置く雑多なものも皆が持ち寄ってくれた。
今までの便利な品に囲まれた生活じゃなく、文字通り火を起こすのも自力でという生活だったが、兄妹はようやく安住感を得た。
他の星なら今まで住んでいた世界に近いとシオンに言われたが、兄妹はここで言いと首を横に振った。
『ネザエイシュアンを、俺達を本当に憎くはないのか?』
ある時、バーソロミュー青年はシオンに問うた。
ここは優しくて温かくて、いつ殺されるか、いつまた同じ目に遭うか恐れなくていいからこそ。
『ネザエイシュアンのすべては、許しているわけでもない』
『なら・・・』
『お前を殺したら、リーザを殺したら、私の家族が帰ってくるのか?』
その言葉にバーソロミューは、答えられなかった。
『ネザエイシュアンの民が憎いから、だからネザエイシュアンの民を皆殺しにしたって。私達が失ってしまったモノは、なにひとつ帰ってこない』
シオンはあの日すべて失い、もう帰らないモノを挙げていった。
17年しかいられなかった愛する家族。
大切な幼なじみ達、同級生達。
生まれ育った故郷の星。
永遠に奪われた、確かにあっただろう明日。
『私が子どもでいられた時間も、子どもでいて良かった時間も、なにひとつ取り戻せない』
ネザエイシュアンがパライオンの星を襲撃、破壊しなかったら、きっともっとたくさんの明日があったのも事実だ。
『でも、俺だって両親殺されて、そりゃキルレシアンを
恨んだりしたが。でも、ネザエイシュアンだってひどいこといっぱいやって』
『・・・アジェールでいつも、夕日を見ると泣いていた』
『え・・・?』
シオンは静かな瞳で、ただ空を見ていた。
『今ここにいたって、いつかきっと家族が迎えに来る。そう思っていたから夕日を見て、帰れないと知って今日も明日も子ども達と一緒になって泣いていた』
『子ども達?ネザエイシュアンの襲撃で、親を失った子供達か?』
違うよバーソロミューと、シオンは言った。
『魔法使いになる素質を持って生まれたから、親に捨てられた子ども達だよ』
『だってアジェールじゃ、魔法使いは大事な存在だっんだろう?』
『まだ話していない昔話をしようか、バーソロミュー』
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