春はあけぼの
おしっ、これで今日は部活は茶道も休み。
どうせ今日も家に閉じこもって電子メカ工作しているだろう、デコなアスランといっちょどこかに出て遊ぶかと思ったら。
つるるるるる〜ん
タイミング良く、リビングの電話が鳴った。
「はいはい。今出ますわよ」
すぐに母が席から立ち、受話器を持ち上げた。
「はい、ヤマトです。ああ、お義母さん。おはようございます」
なぜだろう。
カガリの背中に、冷や汗が流れる。
「ええ。ええ。今日の教室はキラが行きますけど。カガリはちょっと部の用事がありまして、申し訳ありませんが今日の教室はお休みと言うことで。ええ」
母さん、今日は部活動で行けないんだって、どこまでも言ってくれ〜。
カガリは内心叫んだが、相手はこの時期になると”ルールー族”という燃料を受けて燃え上がる祖母だ。
去年もこんな会話した気がする。
しばらく応対した後、電話を切った母は冷や汗たらりとしているカガリを見てこう言った。
「カガリ。お祖母ちゃんがね、どうしてもカガリにも見せたいお着物があるから、部活動も大切でしょうけど今日は休んででもいらっしゃいって」
やっぱりこの季節は、カガリにとっちゃ鬼門だと思った。
ひな人形といい、着物といい、いいことよりもロクなことじゃない方が多すぎる。
「お母さんはカガリ達に着物を仕立てるのが、ずっと夢だったからな。まあ、孝行だと思って今日ぐらいは行きなさい、カガリ」
「そうね。カガリは前回も前々回もその前の前も行っていないし、母さんも今回ぐらい行っておくべきだと思うわ」
うっ!
のほほんした顔しながら、カガリがさぼった回数をしっかりチェックしていたとは。
侮れんぞ、カリダ母よ。
「は〜い・・・・」
「でも、カガリ。あたしも行くから大丈夫だよ」
「ありがとう・・・キラ」
いくらキラがフォローしてくれても、祖母ちゃんパワーの前に父も母もあっさり撃沈されてしまった。
まあいいか。
キラをいつものように、人身御供にすれば。
『カガリ〜。おいらの背中に乗ってお祖母ちゃん家行くっすか?』
でかい顔の回りを太い舌で舐めながら、プックルは明らかに『や〜い。嘘がばれてやんの〜』と面白がっている。
「ごちそうさま。部屋に戻るから、時間が来たら声かけて」
自分の食器を流しに入れたカガリは、部屋に戻って二度寝することを決めた。
同じく自分のとプックルの食器を、大きなシンクに戻したキラは。
「あ。30分たったら、プ〜ちゃんとお散歩しに行ってくるね」
『今日はどこまで行こうかって、今から考えるっす』
朝の散歩か。
雨の日も欠かさないからホント「思いこんだら試練の道を〜」だな、こいつらは。
イヤ、単なる頑固もんかも。
で、とっくに茶道教室に行く時間が来てる。
けれど茶道教室さぼりて〜の虫が騒ぎ立てて仕方がないカガリは、バス停側の公園のベンチでため息を吐いていた。
「どうしたんだい?いつもの元気がないじゃないか」
「ユウナ」
気軽に声をかけてきたのは双子にとってすっかり顔なじみの大学院生で、民俗学などを研究しているユウナ・ロマ・セイランだった。
「茶道教室だから」
カガリがそれだけ言うと、ユウナは「ああ」とガッテン承知の助な顔になった。
「アティラお祖母様は相変わらず、ハッスルハッスル状態なのかい?」
「ああ。春だから」
「そうか。もうすぐひな祭りの季節か。そりゃ大変だな」
燃え上がったお祖母ちゃんの被害者その5は、カガリの数少ない理解者だ。
「(゜-゜)(。_。)ウン。大変なんだよ」
カガリはカクンカクンと、とにかくここぞとばかりに頷いた。
「そう言えば。最近のキラちゃん、家で何か変わったことがあるかい?」
「別に変わったところはないと思うけどな。いつも振り袖着て、プックルとのんびりしてるとしか見えないが」
「実はね・・・」
そうユウナは言いかけ、自分のポロシャツの襟をひっくり返し、ジーンズのポケットを探り。
辺りをきょろきょろとオーバーなぐらい見渡した。
「( ̄▽ ̄;)」
なんでこいつがここまでするのか、カガリはよく知っているから笑わない。
「毎朝、キラちゃんとプックルを見かけるんだけど。」
「ああ。ユウナはジョギングしているんだろ。キラから聞いている」
ここのゼミの教授は超アクティブな人で、研究院生達も引きずり回されるので体力作りにジョギングしているらしい。
「これ、絶対にアスランには内緒にしてくれ。まだ命が惜しいから」
「( ̄▽ ̄;)まさか、まさか男の話なのか」
「(゜-゜)(。_。)ウン。そのまさかの男の話なんだよ」
ふたりの間を((((;゜д゜)))ガクガクブルブルの風が、すうっと吹き抜けた。
アスランはキラ馬鹿もとい、キラの保護者っぷりが昔っから素敵にすごい。
キラは自分に似て可愛いせいか男女構わず友人はたくさんいるし、ラブレターだってけっこう来る方だ。
しかしキラの手元に、それらが来たことはない。
なぜならキラ宛てのラブレターはこっそり回収してたき火の具にし、立ちはだかる壁プックルをものともせず告ろうものならば氷のスマイルで凍らし。
とにかくあの手この手で、キラに悪い虫が付かないようにする。
それが容姿端麗、学業優秀、電子メカオタクで、デコな美少年のアスラン・ザラというヤツだ。
『キラはか弱いんだ。ロクでもない男と付き合わせさすわけにはいかない』
超健康優良児で病気一つしたことがないカガリと違い、キラは生まれつき病弱だった。
何度も風邪一つで入退院を繰り返し、本当に可憐でか弱い女の子だった。
なので、アスランはキラをとってもとっても大事にしてあげなきゃ。
それが幼なじみで男の子だからって言う意識が今もあり、それがカガリには時々歯がゆく思ったりする。
で、それでもユウナが周囲を気にしながら、カガリに教えてくれた話は。
確かにアスランに知れたら「マジで烈火のごとく怒るだろうな」という内容だった。
”毎日美少女と野獣コンビは、ここの公園で朝いつも待っている年上っぽい金髪の男性と一緒にお茶やお菓子を楽しみ、手作りのお弁当を彼に手渡している”
”しかも立体男よけバリアーのプックルと彼は、とっても仲良くじゃれ合っている。キラはプックルと彼が仲がいいことをすごく喜んでいる”
「そ、そいつ。どこの誰なのか知っているのか?」
「あ、(゜-゜)(。_。)ウン。一応彼からも自己紹介あったから」
もち「キラに何人たりとも、男は近づけさせない」というアスランに知られたら、絞め殺されかねないことだけど。
ユウナもキラとその彼とのお茶会に、ちょくちょく加わることもあるらしい。
なんでもその彼、ムウ・ラ・フラガ。
年齢28才はアスランの父と同じ署、同じ捜査一課所属の刑事。
連日の聞き込みと徹夜で貧血を起こしてしまい、ここの公園のベンチに座り込んでいたら、キラが声をかけてきたのだという。
「なんなんだ。そのダイエットか遅刻か何かで朝食抜いて、朝礼で校長の長話を聞いて倒れる高校生みたいなヤツは」
カガリは聞いて呆れた。
刑事なんて体力勝負だろうに。
趣味が体力作りという共通項のカガリとアス父パトリックは、スポーツ関連の話しでとても話が合う。
「まあ、刑事さんも人の子だからね。なんでも彼はここに移動したばっかりで、地理とかいろいろ慣れないこともあって頑張っていたらしいから」
キラは具合悪そうな彼を放っておけないと介抱し、風呂敷からプチ朝食にと作っておいたお弁当を差し出して勧めた。
彼はそのお弁当を美味いと言って食べたらしい。
「彼は出されたお茶とお茶菓子まで平らげて、キラちゃんに膝枕してもらって少し眠ったんだって。あ、膝枕でお昼寝は時間さえあれば今もしているよ」
「( ̄▽ ̄;)あのな。そいつとキラ、その時が初対面だったんだろう?」
「そう言ってたよ。ああ、でも、そういうところがキラちゃんだなって」
なんでキラはちっちゃい頃からああも警戒心がないというか、頭のねじが一本飛んでいるんだろうか。
幸いプックルがいるせいか、キラが誘拐されたことは一度もないが。
「それでそいつ、それ以降ここに来てるって訳か。てか、なんでキラがそいつのお弁当なんか作ってるんだ」
「彼がキラちゃんに、毎朝お弁当作ってくれないかって頼んだからだって」
「キラはお人好しさが過ぎるぞ!」
「僕もそう思うけど、それがキラちゃんの最大の長所だと思うからね」
長所か、いい響きだ。
しかしいくらほんの数時間前まで赤の他人だったヤツにお弁当作ってくれと言われて、実際作ってくるヤツがどこにいるんだ。
いいや。
さっき知り合ったばかりの女の子に、毎日お弁当を要求するそいつもそいつだろう。
「だけど、キラはそんな話は家じゃしてないぞ」
中学に入ってからは姉妹の部屋も分けられ、お互いの趣味も興味も違うから一緒に過ごす時間も短い。
しかしそれでもカガリには妹はいつもどおり、そうしか見えない。
「そいつ、キラのそのいい人ってヤツなのか?」
後にユウナはあの時のカガリの瞳は、『これで恋敵がひとりいなくなった』と書いてあったと語る。
「さあ。それは分からないが。ただ今日はいつも朝ここに来る彼が、今日はまだ来ていないって。プックルも彼の匂いがしないって言ってね」
「匂いとか姿が見えないで、キラが心配してたぁ?」
なんなんだ、そのまるで恋する乙女のようなフレーズは。
「プックルが昨日の匂いはするが、今日の匂いがまだしないって言っててね」
プックルの鼻は普段は意図的に普通の嗅覚にしているが、実は警察犬より鋭い。
雨が降ったり人通りが激しいところでも、一週間前の匂いさえ個別に嗅ぎ分けられるので、よく捜査協力にかり出される。
でキラの部屋にはもらった感謝状が飾ってあり、父方の元刑事の祖父は「さすが我が孫」と鼻が高いらしい。
「あ〜。刑事だから急な用事とかが入ったんじゃないのか」
刑事ってそんなもんだろうと、リアルでもドラマでもとと思ったのだけど。
「ただ彼さ、明らかに寝起きでスーツもネクタイよれよれになっていても、拳をグーの同僚に羽交い締めにされる時もここへ必ず来ているんだよ」
つまり寝起きだろうが、勝手に署を抜け出して同僚に鉄拳制裁喰らって怒られようが、そいつは必ずキラに会いにやってくる訳か。
「で、キラは?」
「それが険しい顔をしたプックルが、キラちゃんを背中に乗せてどこかに走って行っちゃったんだ」
プックルの顔はお世辞にもネコ科でもラブリーじゃなく、いつでも険しい顔風なんだけど・・・。
もっともキラはプックルの顔は表情豊かだよと言いい、カガリには顔の表情がどう違うのか分からない。
「ま、何もなければ、キラちゃんとは茶道教室で会えると思うけど・・・」
『電話だよ〜早くスイッチ押さないと電話の向こうが爆発するぞ〜』
恥ずい着信メロディに赤くなりながら電話に出れば、出来れば一番そうであって欲しくない相手からだった。
「ゴメン。もう行く。お祖母ちゃんがまだ来ないのかって」
お祖母ちゃんは一方的にまくし立てて、電話を切ってしまった。
「分かった。気をつけて。それからキラちゃんに会えたら、彼はどうだったって。一応気になるから聞いておいてくれないか」
「あ、ああ。分かった。後で連絡するから」
んでユウナと別れたカガリは気重に、ちょうど来たバスに乗り込んだ。
テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学
春はあけぼの
「カガリ。キラにプーちゃんもご飯にしましょう」
は〜いと言って、着物なのに優雅な物腰で立ち上がるキラ。
その側にいつもひっつきもっつきのプックル。
こいつら24時間一緒、お風呂に入るのも一緒で、恥じらいとか飽きはこないんだろうか。
「さあさあ、カガリ。あなたも早く席に着きなさい」
「は〜い」
まあいい。
この人形達はこの数週間で、片づけられるから。
その後に鎧甲冑が飾られてもそれさえいずれ片づけられるのだから、心を平安京に保てばいいとこの頃は思うようになったカガリだった。
「おっ。今日は魚介類が豊富だな」
あごをさすりながらリビングにやってきた父ハルマが、テーブルに並んだ和風チックの朝ご飯を見て相好を崩した。
「そうでしょ。今日もたくさん食材が届いたから、頑張っちゃったのよ」
「今日の海鮮焼きと吸い物は、あたしが作ったの」
『パパさん、キラの作った料理たらふく食ってくださいっす』
「キラもママに似て、料理が上手になっていくなあ」
「まあ、あなたったら」
カガリも料理は出来るが、ここまで見た目よくは出来ない。
(ま、美味しかったらそれでいいのさ)
「ねえ、カガリ。今日はアティラお祖母ちゃんのところにお茶習いに行く日だけど、カガリは何か用事入れてる?」
デザートを食べていたらキラに聞かれ、カガリは思わず白玉団子を喉に詰めそうになりウッとなる。
父方の祖母アティラは隣町にある父の実家で、茶道教室を開いている。
孫娘のキラとカガリは行儀作法も兼ね、そこへ茶道を習いに行かされている。
が、しかしカガリは出されるお茶菓子は甘いから好きだけどお抹茶は苦いから苦手だし、正座は足が痺れて立ち上がれなくなる。
また制服やワンピースと違い、身体を締め上げる窮屈な着物を必ず着せられるのが一番嫌だった。
「用事を入れてるのなら、おばあちゃんにそう言っておくけど」
キラはカガリがおばあちゃんちに行くのは、すごく後ろ向きなことをよく分かっている。
「あ、ああ。その、なんだ、部の買い出しがあって。今日は行けないって言っておいて」
「分かった。カガリは陸上部のホープだもの。部活動の方を優先させないとね」
本当は部の買い出しも用事さえもなく、ただ教室をさぼる口実にだ。
きっとキラが言えば、お祖母ちゃんも信用してくれるだろう。
『カガリ。前もそう言ってさぼっていなかったすか?』
「そ、そうだったけ?忘れちゃった」
さぼっていることが分かっているから、ついしどろもどろになる。
「カガリ。あんまり休んでばっかりいると、せっかく習ったこと忘れちゃうわよ」
大丈夫。
その前に全習ったこと全部、片っ端から頭から抜け落ちてるから。
「う、うん、そうなんだけど。どうしても部活動が忙しくて抜けられなくて」
「まあ、いいじゃないか。キラがちゃんと通っているんだから」
ナイスだ、お父さん。
父ハルマは習い事をさぼることに関して、母ほどそう五月蠅く言わない。
茶道教室をさぼりがちなカガリにとっちゃ、それはかなり気が楽だ。
「そうね。キラがきちんと通っているから、それはそれでいいんでしょうけど」
キラと違い真面目に茶道教室に通わないカガリに、母は少し渋い顔をする。
てか、あれもやはり11年前。
双子の孫娘が生まれて5年間。
我慢に我慢を重ねてくれていたお祖母ちゃんが、”ルールー族”という燃料を得、我慢の鎖をぶっちぎって燃え上がった時だった。
『お祖母ちゃんはね、ずっとカガリとキラに着物を着せて、茶道を習わせてあげたいって思っていたのよ』
お祖母ちゃんは用意していた着物を双子に着せ、連日茶道関係のお店を中心に引きずり回した。
キラとプックルは好きだからか喜んでいた。
でも興味のなかったカガリにとっちゃ、これは面白くも何ともない。
しかも窮屈な服で息が出来ないという有様の状態で、とうとう生まれて初めて熱を出し数日寝込んだ。
それ以降、両親はカガリの苦手意識を少しは汲んでくれている。
が嫁姑の問題もあり、カガリを茶道教室に全然行かさないわけにもいかないんだろうな。
「と、というわけで、茶道教室の方よろしく」
「(゜-゜)(。_。)ウン」
「キラの方が呑み込みいいから、お祖母ちゃんも教えがいがあるだろう。後継者もキラで決まり、なんじゃないのか」
学校の制服や寝間着以外は振り袖などばっかり着ているこの妹は、ある意味カガリにとっちゃ心の防波堤だ。
誰からのかっていうと父の母、つまりカガリ達にとっては祖母のアティラからのだ。
15才の誕生日を過ぎた頃からお祖母ちゃんは2人のどちらかに、自分の教室を継いで欲しいと言うようになり。
カガリはキラが防波堤になっているおかげで、お祖母ちゃんの熱烈荒波に晒されなくて済んでいた。
「そうみたいだけど・・・でも・・・」
キラが可愛く小首を傾げ、プックルが意味ありげな視線をカガリに向けた。
しかし今日もさぼりだと浮かれていたカガリは、その意味を気がついちゃいなかった。
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春はあけぼの
「カガリ。この子はね、撫子ちゃんていうの」
「そっか。可愛いな」
キラが見せてくれた人形を見てカガリはそう言い、しかしすかさず言った。
「でも、私はそういうのはいらないからな」
カガリはこの『ぽぽちゃん』サイズの着物を着た、ひな人形に似た顔の人形なんか要らない。
きちんと口に出して読みたい日本語なみに、妹に言ったのだけど。
しかし次の春。
カガリにとキラのとはまた違う顔で、同じサイズの人形が贈られた。
「誰が欲しいって言った〜」
それを見てカガリは悲鳴をあげた。
「あら。カガリ」
悲鳴を聞いて母がやってきたので、カガリはてっきり慰めてもらえるかと思ったら。
「あなたもキラのように少しはお人形さんを愛でる、ことぐらいはしてもいいんじゃないの」
「で、でも〜」
おかーさん、私が人形嫌いって知ってるじゃん。
「あなたがいつまでたっても、これっぽっちも落ち着かないのが心配なのよ」
「キラだって野山をプックルとあちこち、どったばったしてるじゃん」
「でもキラはお人形さんと遊んだり、いろいろしているじゃない」
「私は外で遊ぶのが好きなだけだってば〜」
「せっかく女の子に生まれたのだから、少しは女の子らしい遊びもして欲しいのに」
でも私は人形がとっても嫌い〜とカガリは、それこそ泣きに泣き喚いた。
「ですが、カガリ。お二人を区別しないことは、素晴らしいことじゃないですか」
ラクスは姉妹同時に可愛がってくれる赤の他人は、そうそういませんよと微笑みながら言った。
「そりゃそうだけどさ・・・。でも、苦手なモノは苦手なんだ」
「それにあのお人形さん、すごいですわ」
カガリにと贈られた人形をそっと抱き上げ眺めながら、ラクスは頬をピンク色に染めため息を吐いた。
「なにが、どこが?」
なんか嫌な予感がした。
こいつがこんなにうっとりする顔をする時は、たいていロクなことを言いやがらないからだ。
「だって、カガリ。このお人形さんの御髪。おひな様達のと同じく人の毛ですわ」
「\( 〜∇〜)/ エーーーッ!ひ、ひ、ひとの毛!」
慌てて後ろに後ずさるカガリ。
てことは、まさかキラのもそうなのか、まさかそうなのかと思ったら。
こいつ(☆ー゚)・‥…━━━★ピキューン!と来たんだろうか。
「ええ。キラの撫子さんの御髪も、同じく人の毛ですわ」
カガリは人の毛と聞いた時点で、すでに泡を吹きそうになっていた
「しかもどちらにもキラを見守る存在が宿っていらして。ああ、でも。けっして悪いものじゃありませんわ」
部屋の隅っこに脱兎のごとく逃げ、((((;゜д゜)))ガクガクブルブル涙ばらりのカガリ。
ご丁寧にラクスは魂が宿り、髪の毛が伸びる人形の話を披露してくれた。
おまけに夜中とか日中関係なく、1人で動き回る人形もいる話もだ。
結局カガリが泣き喚いたのでカガリに贈られた人形は、キラが自分の部屋に連れて行ってくれた。
「この子の名前は、萌葱ちゃんになりました」
「そ、そっか。まあ、その、大事にしてもらえ」
「(゜-゜)(。_。)ウン」
これでもうあいつの部屋に入らない限り、人形達の顔も見ることはない。
カガリはそう思い、安心していたら。
「ヒィィィィィ(゚□゚;ノ)ノ 」
カガリの悲鳴が家中に響き渡った。
ラクスが言っていた。
あの人形達にはキラを見守る存在が宿っていると。
あと勝手に動き回る、世にもおっとろしい人形もいる話もだ。
「お二人で散歩ですよ」
萌葱も撫子と名付けられた人形達が、自分達だけで家の中を動き回っていてもキラは平然としている。
「キラにお茶とお菓子をお願いね」
なぜか母は動き回る人形達を見ても驚くこともなく、むしろ用事を頼んだりしている。
で父はと言うと。
「まあルールー族の作った人形だからね。不思議なことが起きても、それはルールー族だからね」
なんとなく受け入れているじゃないか。
ある日も仲良く散歩する萌葱と撫子、でも人形な彼女達。
その光景を目撃したラクスは「まあ、素敵ですわ」と頬をピンクに染めて喜んだ。
んでどこにしまっていたのか不明だが、デジカメを取りだし忙しなくボタンを連射していた。
以後も彼女は家に来ては散歩したり、用事で動き回る人形達に狂喜乱舞した。
「これは素晴らしいですわv」
「めったにお目にかかれない光景ですわv」
デジカメで撮影した写真をそのての雑誌に送ったり、自分のブログに載せたりしている。
しかしそこまで感性が突き抜けていないアスランはこの家に遊びに来るたびに、今度は耳栓以外に黒のサングラスを用意するようになった。
グラサン程度で人形達が動き回る光景を防げるわけがないのだけれど、多分気休めと分かっていてもつけたい気持ちは分かる。
そして微笑んだラクスにサングラスを奪われ、人形達の前に引きずられていくと。
「あれはきっとからくり仕様の人形に違いない。そうに違いない」
カガリは必死にと自己暗示をかけ、なんとか見ないふりをしている。
が夜中にふと目を覚ましたら。
「(;゜ロ゜)」
萌葱と撫子が枕元にいた、なんてこともあったり。
私の明日はどっちだ、なカガリだった。
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春はあけぼの
11年前、夏の暑い日。
アスランやカガリ達は川の中で水遊び、キラは川辺でのんびり見学していた。
「キラ、なんだそのきたない石っころは?」
「呼ばれたから、拾ったの」
「拾うな、そんなもの」
カガリがキラの様子を見に河から上がったら、キラは両手で抱えるぐらいの真っ黒い球体を、大事そうに抱えていた。
「キレイキレイにしてってゆってるの」
「キラ・・。お前暑さで熱あるだろう」
事実その日の晩にはキラは高熱を出し病院に運ばれ、一時は呼吸器をつけられるほど衰弱した。
がキラは意識がなく、生死の境をさ迷いかけたその時も、あの石を大事そうに掴んで放さなかった。
でキラの熱がようやく下がり、点滴のみからおかゆを食べられる様になった頃。
「あらキラ。この石、透明になっているわね」
「うん。キレイキレイになったってゆってるよ」
あんなにまっ黒だった球体は水晶のように透明になり、七色の不思議な光を内側から放っていた。
そして無事に退院し自宅療養していたキラが、おかしな事を言い出した。
「大きな猫ちゃんがね、キラとね、一緒にでかけようってゆったの」
「キラね、大きな猫ちゃんと遊びに行ったの」
「キラね、猫ちゃんの背中に乗ったの」
小柄なキラを背中に乗せられる猫って、いったいどんな大きさだと思ったが。
つうか両親もカガリもアスランですら、夢でも見たんだと思っていた。
なにしろキラは数日おきに高熱を出しては寝込む、を繰り返していたから。
「ウズミのお祖父ちゃんのいる山にもね、キラと猫ちゃん、いったんだよ」
自然をこよなく愛する陶芸家の母方の祖父ウズミは今、自宅兼工房のある私有地の山で暮らしている。
もちろん家からかなり遠く田舎だしへんぴなところにあるから、行くのに片道だけで半日以上かかる。
「まあキラったら。そんなにお祖父ちゃんに会いたかったのね」
夢で見るほどと単純に母は思ったが、なんとその後ウズミから電話が来た。
『この間、キラが山に来たぞ』
「ええ?」
つい最近ウズミがかまど近くで拾った黒い石をくださいと来たと言い、それでいるのならとあげたという。
『草むらに見たことのない、ネコ科らしいでかいのがいてな。しかも人語をしゃべっていた』
ウズミが渡した黒い石をキラはネコ科生物に見せたところ、そのネコ科動物は『ああ、間違いなく宝玉だ』と言ったという。
その後母屋でお茶とお菓子を食べたキラはネコ科動物にもたれてお昼寝をし、ネコ科動物は大事そうに見守っていた。
『キラはその動物の背に乗り、帰っていったが』
彼女はでかい猫は『アルゴン』と呼び、猫は『キラ』とお互い親しみを込めて呼んでいた。
で当のキラはまた高熱を出して寝込み、母がいったいこの子はなにをしているのかとベッド脇で思案した時。
「あら?石が増えているじゃない」
なんと一個だったはずの石がいつの間にか10個に増え、どれも綺麗な光を内側から放っていた。
「キラ?」
11個目の石はうなされているキラがしっかり抱きしめ、黒と淡い光が中でグルグルしているのが見えた。
翌日キラの熱が下がった頃には、その石は10個の石と同じ煌めきを放っていた。
「あらキラ。あの綺麗な石、どうしたの」
なんとさらに翌日、寝ていたキラにお昼よと言いに来た母が、あの石が一つもないことに気がついた。
「ん〜。あのね。アルゴンにね、ハイってわたしたの」
全部揃ったから長老様に渡してねってと渡したのとキラは謎なことを言い、お昼を元気に食べまたスヤスヤと寝てしまった。
んでキラが行方不明になったのは、それから3日後だった。
そしてルールー族という不思議な彼らと出会いがあり、『ひな祭り』という”女の子の幸せや良縁などを願う祭り”が毎年我が家の恒例行事となった。
もっとも人形嫌いのカガリにとってこの季節は、まさに((((;゜д゜)))ガクガクブルブルものだ。
別にカガリも何かした訳じゃないのに、カガリがキラの双子の姉だというだけの理由で。
”ルールー族”は毎年桃の節句前に咲いたばかりの桃の花の枝、新しい春色の振り袖、和菓子などをこの11年間欠かすことなく贈ってくれるのはそりゃ嬉しい。
しかしかかし。
ラクスが和室に飾られたひな人形を見て。
「こちらの人形達からは悪い気が感じませんが・・・。でも、キラを優しく見守る存在は宿っていますわね」
そう前置きした瞬間から。
いや、それだけじゃない。
彼女がうっとりした顔で、このような職人が手を込めて作った人形にまつわるありとあらゆる怪奇話をカガリに語ってくれた以来、カガリはこの季節が怖くなった。
てか、誰も怖いことないのかとカガリは思う。
白塗りの顔の人形達が夜中に宴をしたり、実はお家復興とか世界征服企んでいたり。
デパートの地下鉄を利用して移動して哀れな犠牲者を(σ・∀・)σし、犠牲者の髪と魂で作られた人形を作るとか。
そんでもってその事件の裏で、必ずそれを暴く役割を持つ霊能者と普通の女の子とか。
代々そっち系を見張り、守る家系に生まれた美形の男の子とか。
巻き込まれてキャーキャー言う女の子がいるのが、少女漫画じゃセオリーなんだな、うん。
その手の話にこんな人形は事欠かないんだぞといくらカガリが力説しても、半分以上の人間の反応はチロルチョコの欠片ほど薄いのが悲しい。
カガリと同じように人形が怖いといってくれるのは、本当に少ないと思うとなんだか切なくなる。
(それでもまだ、ここまではなんとか・・・その・・・まあいいんだ)
まだ『ひな祭り』の人形は一定期間飾っておき、時期を過ぎると婚期を逃すという言い伝えがあるからと箱に片づけるからいい。
その時期が過ぎればまた次のシーズンまで、見なくて済むから。
いやカガリだけが((((;゜д゜)))ガクガクブルブルになる季節は、実は年にもう一個ある。
それは男の子の成長などを祝う『端午の節句』だ。
お父さんが男の子だからと贈られたモノで、人が着た姿に整えられた鎧甲冑が和室に飾られる。
だから夜中にもしも歩き回っていたら、そう思うだけで眠れなくなる。
もっとも空に泳ぐ『鯉のぼり』はいいのだ。
あれは魚の形をしているけど怖くないし、仲良くなった友達が遊びに来る時などいい目印になるから。
が、しかし。
キラがあれら以外にも人形のお友達をもらっていたのが、カガリの日常に関わるとっても大きな問題だった。
テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学
春はあけぼの
時に猪突猛進、時に向こう見ず、はたまた命知らずの無鉄砲と言われるカガリ。
しかし実はちっちゃい頃から、苦手なモノがたった一つだけある。
それは『オカルト』関係全般だ。
喧嘩だろうがなんだろうがどんこいでも、夏になれば恒例のオカルト番組とか心霊モノ。
あるいは遊園地に出現するお化け屋敷、林間学校の肝試しが相手だと、いつもの勢いは穴掘って隠れてしまう。
もっともラクスはにっこり笑顔で、カガリをそれらの場所へ引き摺り込もうとする。
オカルト系が全部嫌いだから、魂が宿りやすいというお人形さん類も好きじゃない。
だから父方の祖母が2人に人形を買ってくれても、キラにすぐにあげていた。
あの頃は病気がちだったキラは人形が人間の友達の代わりで、一体ずつ名前を付けてベッドの中でも可愛がっていたから。
『ほら、キラ。お前の新しいお友達だぞ』
「ありがとう。カガリ。大事にするね」
もっともキラとカガリは、同じ部屋だったので。
二段ベッドの上に寝ていたカガリが、ふと夜中に起きてしまったとき。
キラが飾り棚に大切に並べた人形達が、月明かりの下自分を見ているような気がした時など。
「ヒィィィィィ(゚□゚;ノ)ノ 」
家中に響き渡る悲鳴を、いったい何度轟かせただろうか。
「カガリ。ただのお人形さんじゃない」
「でも、なんだか怖いんだもん〜」
母はベソをかく自分を抱きしめ、落ち着くまで背中を優しくさすってくれたもんだ。
しかしこれらはまだよかったと、カガリは後で知る。
キラが愛でた人形達はあくまで、ほんの”気配”だけだったから。
幼稚園からの高校まで今のところ、全部同じところというおっとろしい腐れ縁の1人。
クライン神社の1人娘ラクスは見た目のほほんなように見えて、実は『私、怒らせたら怖いんですわv』な性格だ。
元気が有り余っていたカガリ。
小さい時から双子の面倒見が良かったアスラン。
ラクスの恐ろしさを2人が知ったのは、あるささやかなイタズラだった。
生きたカエルを彼女の帽子の中に入れておき、それを持ち上げたラクスの顔にぺちゃっとかいうヤツだ。
顔にカエルを張り付かせたまま素敵に笑顔のラクスに、「引っかかった〜!」と両手を叩いてはしゃぎ立てたカガリ。
あれ怖がっていないのかなと、不思議そうな顔をしたアスラン。
2人はラクスが吹き矢をとりだし、フッと吹いた途端に眠くなったまでは覚えていた。
「んぎゃあああ〜!!」
「な、な、なんじゃこりゃ〜!!」
次に目が覚めたカガリとアスランは、おびただしい数の人形の中に転がされていた。
でマジで大絶叫した2人。
「あら、おふたりとも目が覚めましたか?」
ラクスの家じゃ普通の業務以外に人形供養もしているので、いわく付きのモノも奉ってあるわけで。
こっちを見るもの言わぬ人形の群れにカガリはパニックを起こし、アスランは泡を吹いて失神した。
「あらあら。気を失うのは、まだ早いですわv」
どこに仕掛けてあるのは未だ不明だし、寄りつかないから分からないままだけれど。
「(;゜ロ゜)」
「ヒィィィィィ(゚□゚;ノ)ノ 」
ドリフの舞台のように上から冷たい水が降ってきて、否応なしに全力で覚醒させられた。
「お気づきになったところで・・・」
このピンクの悪魔はここに集められた人形たちの、世にも恐ろしい曰く話を延々と語ってくれた・・・。
アスランもカガリも黙って聞いていられず、逃げだそうと出口近くまで這い出て、扉にてをかけたが。
「私のお話が終わるまでは、出られない仕様ですわ」
マジで泣いた。
床にネズミの絵を描けるぐらい、2人は抱き合って泣いた。
その日以来カガリは絶対にラクスにだけは、イタズラはすまいと誓った。
んでキューピーちゃんもぽぽちゃんのような愛らしい人形も、魂が宿りやすい人形だから絶対に大嫌いだと気持ちを新たにした。
アスランは熱を出し、しばらく寝込んだ。
またこの一件以彼は来耳栓を常備するようになり、ラクスがにっこり笑顔をしたら、即座に耳栓をはめるようになった。
そんでもって人の話を聞いていないのですねと、さらにひどい目に遭わされること多々あり。
今その神社の一角には幼かったキラが可愛がった人形が、全部まとめて収められている。
あまりに彼女が愛ですぎたので魂が宿っているとラクスが言い、きちんと供養した方がいいと言うことで収めたのだ。
ちなみにその事実を知り、まだ部屋にあったそれらの人形を見て( ̄□ ̄;)マジ!? と泡を吹いたカガリ。
もちろんカガリの人形嫌いは、さらに加速して今はイスカンダルの彼方まで届くぐらいだ。
でも、あの頃はまだ良かったのだ。
超健康優良児のカガリは外で遊ぶ時間が多く、家にはご飯と寝に帰るだけだったから。
夜中に目さえ覚まさなきゃ、目を覚ましても目をつぶっていればまだ良かった。
しかしあれは11年前のこと。
カガリにとんでもない春の嵐が、やって来たのは。
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