一杯のコーヒー マヌケなヒーロー達R

25



『アーヴィング達はゲームでモニターの向こうにいる、ゾンビとか敵とかそれらをボタン連打して、自分のスコアを伸ばし、腕を磨いていただけだ』

『ただゲームと違いリアルの、アーヴィンらのモニターの向こうにいたのは、スイッチを入れたらまた復活する生命じゃなかっただけだ』

『アーヴィングやネザエイシュアンの軍人達。連中も正しく、そう正しくおかしくなったのさ。誰が悪いとか、悪くないとかじゃなく』

『新しい玩具やゲームを手に入れたら、誰だってそれで遊びたくなる』

『それと同じ新しい武器や兵器、誰もまだ持っていないモノを手にしたら使ってみたくなる。それと同じさ』

『たとえその遊び相手が、試す相手が自分と同じだろうが、そうじゃなかろうが。とどのつまり、自分の欲求を満たしたいからする。それだけさ』

『お父さん。なぜ自分で探し出し、自分だけが殺されようとしなかったんですか』

『言っただろう。死にたかったとうそぶくヤツほど、自分の命を惜しみ、他人の命を軽んじると』

『だからオブレール家の人々も、パライオン星の人々も生きたかったんだ。生きたかったからこそ、自分以上に愛する者達を生かす道を選んだ』

『俺達が思っている以上に、オブレール家の生き残りは生きていること自体が、耐え難いほどの生き地獄なのかも知れん』

『だが、だからこそ見たい。オブレール家の生き残りが紡いでいるだろう、俺達の知らない物語を』

『アーヴィング。私の娘や孫達はお前に殺されるために、この世にいたわけではない。お前が戦争に行っておかしくなろうが、傷ついたとかそんなのはどうでもいい』

『こいつをあんたが殺すのは、あんたの勝手だ。ただこいつを殺せば、あんたもこのろくでなしになるだけだ』

『あんただって私達軍人が命令どおりに、他の星を攻撃すれば絶賛した口だろう!戦場に行きもしない、行くこともしなかったくせに文句だけは言うのか』

『ああ。確かに私達は、他の生命体を殺したさ。だがそれだって命令だった。軍人が命令に従うのは当然じゃないか』


 彼らはハンナを呼び、すっかり身支度を整えた子ども達を前に言った。 
「こんな形でしかこいつらを、あんたの娘も生きながらえさせてやれない」
 彼女の娘と何割かの子ども達は人間の姿をした、脳みそだけが自前のサイボーグ達だった。
 彼らはキルレシアンがネザエイシュアンを攻撃したことにより生まれた被害者達で、またネザエイシュアンの一部の人間達による被害者達でもあった。
「人間にもう一度戻すには、後世に託すしかないだろう」
 これだけのことが出来たのは彼らの生まれた星が生身の人間が生きていくには険しい環境で、それゆえ機械との融合が推し進められていたからだ。
 ただ皮肉なことにネザエイシュアンはそれを間違っているとし、その星を徹底的に蹂躙し破壊し尽くした。
 それなのにアーヴィングらはサイボーグの研究を、自分達だけはいいと推し進めていた。
「俺達が他にできることは、こいつらが安心して暮らせる場所を作ってやれること。それぐらいだ」

 復讐することの虚しさ。
 しかし怒りを抑え込み悲しみをこらえ生きるには、あまりにも抱えきれないその生の苦しみ。
 だが怒りにまかせ振るった拳が何を叩き壊し、なにを新たに再生産してしまったか。
 ネザエイシュアンは憎い相手に代わりがなかったが、自分達の星を破壊し、虐殺の限りを尽くした相手は政府と軍人達だ。
 その罪や憎しみ憎悪を軍人の家族、ただ政府に踊らされた一般人にまで被せるべきか否か。

 そもそも罪の贖いは誰に、何に、どこまで問いつめればいいのか。
 そしてどんな悲しみや苦しみが誰かの、何かに降りかかっても続く世界に、この先も生きていかねばならぬ者達の心はどうすればいいのか。

『俺達があの日、あの研究所を攻撃しなかったら。お前はカノンさんやヴィクトールさんを失わなかった』

『この子達から多くのものを、奪われた側の俺達が今度は奪ってしまった』

『アーヴィングに殺されるためにお前の母も兄姉、お前の子らもランデール家の人々もいたのなら。生まれてきた意味は、いったい何だったのだろうか』

 ネザエイシュアンが星々を正義の名の元に蹂躙し、多くのキルレシアンを生み出し、報復の連鎖が新たな連鎖を生む。
 彼らは怒りにまかせ拳を振るう仲間達を止めようとしたが叶わず、また嘆き悲しむその裏でニヤリと笑うネザエイシュアンの両方を見続けていた。

 ある日ハンナを連れて彼らはどこかに出かけていき、行き先は誰も知らなかった。
 ただまた帰ってきたとき、それまでどこか弱々しかったハンナは、何かが落ちたような顔をしていた。
 そして彼らは始終怒っているようであり、同時に何か深く悩んでいた。

「俺達はキルレシアンを去る」
 彼らはキルレシアンに属す、他の仲間にそう告げた。
「ここにいても虚しい・・・だからだ」
 しばしの沈黙の後、片方が言った。
「どこか行く当てはあるのか」
「ああ。一つだけ」
「そうか。いるモノがあれば、持っていくがいい。お前達のためなら、なんでもくれてやる」
「助かる・・・・。俺達はもう死んだモノと思ってくれ」
「今までありがとう」
「気をつけていけ。忘れない」
「ありがとう・・・お前達もな」
 キルレシアンに属する者達は去っていく仲間達に、それぞれの星のやり方で祝福と別れを告げた。

「ハンナ。あんた、今まで住んだ星の中で、どこが一番好きだ」
 彼らの中でリーダー格の男は一番、ハンナと接する時間が長かった。
「惑星セレナですわ」
「そうか・・・あんたセレナの言葉はしゃべれるか。文化とかも分かるか」
「はい。読み書きは十分出来ますし・・・」
 しかしそれらをハンナに教えてくれた人々は、もうこの世にはいない。
「ならハンナ。お前に新たな役目が出来たぞ」
「新たな役目ですか?」
「そうだ。新たな役目だ。これはお前が生き残った理由に出来る」
「そういうものなのですか?」
「ああ。お前が生き残った、大きな理由だ」
 彼はハンナを生かす、最大の理由を初めて明かした。
「今となってはもうセレナのことを伝えられのは、あんたと娘だけだろう」
「し、しかし私は惑星セレナの人間ではないですし」
 むしろ敵側の人間だと渋るハンナに、生き残ったのにはそれだけの理由があると言った。
「ならばセレナの言語や文化だけじゃなく、あなた方の生まれ故郷の言語や文化も復活したら」
 あなた方は覚えているのでしょう、自分達の生まれ故郷のことを。
「いいや。いいんだ」
 彼らは首を横に振った。
「ハンナ。あんたは再生の母になるんだ」
「あんたが一番愛した星の、再生の母にな」

 だから生きてくれ。
 ハンナ。
 あんたの人生を意味のあるモノに仕上げるから。

 俺達みたいなくそったれでも、せめて一つぐらいは意味のあるモノが出来るとそう思わせてくれ。

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24


 人殺しを続け、他人の生殺与権を握ることを覚えてしまうと、たとえその殺戮の目的が何であったにしろ、人は勝手な生き物に成り下がるのだ。
 なによりも自分を優先するようになるのだ。
 あたかも自分が神であり、神の考えはすべてを越えるという思い違いをするようになるのだ。
 自分の考えに間違いはないと思うようになるのだ。


 宮部みゆき・著『クロスファイヤ 下』P338より


 ネザエイシュアン軍の最高司令官ワレス・ダル・バルバドラムの息子アーヴィン。
 それがハンナとその兄姉達の父であり、ハンナが生んだ子ども達の祖父だった。

 『許されたがりのアーヴィン』

 今はそのあだ名で呼ばれるとおり、アーヴィンは許されたがりの、だが単なるキチガイ野郎だ。
 軍の最高司令官父親の命ずるがまま、軍人としてある意味”正しく”任務を遂行してきた彼。
 しかしパライオン星や愛の形見星でのミッションを終えた後、急に何かが怖くなり軍から身を引いた。
 やがて平穏無事な日々に過去を封じ込め生きていた頃、キルレシアンに自分達が今までやって来たことの報復をされた。
『許されたい』
 やられ返されたことによるショックのあまり自省し、今までの行いへの謝罪を求めたのならまだ分かるが。
 ただこいつの場合は自分が許されたい、そのためだけにいったい何をしたかだ。

 キルレシアンによる攻撃の手は止まず、多くの死傷者が出、生き残っても親も親戚もいない孤児の数も急増していた。
 彼の2番目の妻は夫が元軍人で、孤児達のボランティアもしていると聞いていた。
 そして最初の妻子はキルレシアンの攻撃で亡くなっており、だから孤児になった子らを自分は放っておけないと。
 とても優しい人なのだわ、そう思っていた。
 やがて2人の間に子どもが次々5人も生まれ、アーヴィングはそれをとても喜んだ。
「早く大きくなるのだよ。お父さんの為にも、お前達は早く大きくなるのだよ」
 まるで呪文みたいに、彼はその言葉を子ども達に語っていた。

 彼女と子ども達がなにも知らなかったからこそ、幸せでいられたその日々はとても短かった。
 長男が10歳を過ぎた頃、ある日忽然と姿を消した。
 アーヴィングや彼の妻は方々を探し回り、警察に捜索願も出したが、結局その行方は分からずじまいだった。
 やがて長女も10歳を過ぎた頃、最初の子と同じように消えた。
「おかあさん。いなくなったおにいちゃん、おねえちゃんね、おとうさんがくるまにのせていたよ」
 末っ子のまだ幼いハンナが涙にくれる母親にそう話し、彼女はなんとなくだったが夫に黙って監視カメラを取り付けた。
 やがて3番目の子どもがいなくなり、彼女はもしやと思いカメラの映像を見た。
「あなた・・・。あの子をどこへ連れて行ったの?」
 果たしてそこに写っていたのは、3番目の子どもを乗せ、どこかへ走っていく夫の車だった。
 しかも子どもがいなくなる前、それっきり帰ってこなかった時の。
「ああ。子ども達なら、大丈夫だよ」
「あなた・・・。子ども達はどこにいるのです?」
 椅子に座る夫の顔はまるでマネキンに笑顔が張り付いた、そんな異種異様なモノに見えていた。
「あの子達に会わせてください」
 無事ならばと続けようとして、彼女はその言葉を口に出すのを躊躇った。
「いいだろう。お前にもそろそろ教えてもいいかなと思ったのだ」

 そしてアーヴィングが妻と2人の子どもを乗せた車を走らせた先は、山奥に立てられた大きな建物だった。
「ほら、見てご覧。これが私達の子どもだよ」
 嬉々として彼が妻に見せたもの。
 それは正方形のカプセルの中に浮かぶ、人間の脳みそだった。
 張られたラベルにはまさしく消えた子ども達の名前が記されてあり、それだけで彼女の息を止めかけたが。
「まだ実験段階で試用レベルではないから、とりあえず脳だけの状態にしてあるのだ」
「なんの・・・ですか?」
「もちろん新しい兵士とか、長い時間を生きられる機械の身体を持つ人間だ」
 ロボットが機械仕掛けの人形と呼ばれていた頃、脳だけ人間の新しい人種を生み出す構想があった。
 しかし生身の人間を用いてには倫理問題も多くあり、また実験に身体を提供する酔狂な者もいるわけがない。
 だがそれらの研究を遂行したい、そう思い望む者達が諦めたわけでもない。
「キルレシアンはとても素晴らしい人々だよ」
 アーヴィングは妻に熱く語った。
「知っているかい?ネザエイシュアンは常に、軍人が不足している。召集したってそうそう集まらない。軍にリクルートすると言っても、人の数には限りがある」
 妻は2人の子どもの手を握った。
「しかも長く生きられ耐久性のある兵士、人間を生み出すための素体はもっと不足している。誰もなりたがろうともしないからね」
 だからこそキルレシアンはむしろ我々のために、とても役立ってくれている。
「彼らがどこかを攻撃するだろう。すると一度に大量のある種の人間が生まれる。ある程度の年齢の人間なら、衣食住を保証するから軍人にすることが出来る」
 しかし軍人にするにはまだ幼く、養育機関に預けて育てるにしても数が多い場合。
「ならここで我がネザエイシュアンのために、私のためにでもあるが、役に立ってもらうことにした」
 脳だけをとりだし機械と繋げる、人間と機械が融合した新人類誕生の布石。
「私は世界各地から集めた孤児達をここに送り、早く私のためにも役立って欲しいと願っている」 
「あなたの為に役立つ?」
 彼女は夫から正気の振りしてにじみでる狂気に、じりじりと後ずさりしていった。
「そうだよ。私は許されたいのだよ」
 誰に、何にと問う妻。
「決まっているじゃないか。パライオン星のオブレール家の人々にだよ」
「パライオン星のオブレール家ですか」
 彼女もその名前は知っていた。
 我がネザエイシュアンに対し、7年間も楯突いたパライオン星。そのもっとも忌むべき存在だったとして。
「そうさ。きっと生き残った人間がいるだろうから、その生き残った者に殺してもらうのだ」
 アーヴィングは微笑んだ。
「私の血を引く子ども達をオブレール家の生き残りに殺してもらうことで、許されようと私は思っているのだ」
「はあ?」
 彼女は思わず、間の抜けた声をあげた。
「しかし今どこに生き残りがいるか分からないから、子ども達に機械の身体を与え探させるんだ」
「私には意味が分からないわ・・・」
 どうしてそれがあなたではなく、子ども達の役目になるの?
 そのまえになぜ、あなたは許されたがるのかが分からない。
「私の子ども達だけでは数が足りないから、ほら見てご覧」
 そう言って彼は壁のボタンを押し、隠れていた何かを妻に披露した。
「ひ・・・!」
 壁一面にずらりと並んだもの。
 それは大小様々なサイズの人間の脳みそという、飾りにしてはあまりにも悪趣味すぎる悪夢だった。

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23



『俺達のしたことすら結局、アーヴィングやネザエイシュアンは食い物にした』

『被害者も生き残った者も悲しいが、いつだって置き去りだ。顧みられることも少ない』

『加害者が俺達被害者をどれだけ生んでも、被害者が拳を振り上げ振り下ろせば、その時点で俺達も加害者だ』

『俺達がやったことも、ネザエイシュアンがやったことも許されない』

『あいつに殺されるために、あいつの子に生まれてくることをお前達が選んだというのか?』

『あなたはただの人殺し。それ以上でもそれ以外でもない。みんな、あなたに殺される為に生きていたワケじゃない』

『父親を人殺しというお前は、ならいったいなんだ!お前だって人殺しの娘じゃないか!』

『ええ。そうね。あなたの娘である以上、私は人殺しの娘だわ』

『私達軍人は命令に従って、ただ命じられたことをやって来ただけだ。安全な場所であれこれ騒ぎ立てているヤツらは、私達を批判し賞賛するが』


 キルレシアンに属する宇宙船団の一つが、ネザエイシュアンの軍事研究所を襲撃し回っていた。
 ある日、急襲した研究所から何かを抱えた女性が、身のこなしが兵士っぽい男と出てきたのを見つけた。
 研究所の生き残りかと思い銃を向けたが、男は以外にも女性達の保護をキルレシアンに求めた。
「この女性と”彼女”を頼んだ」
 彼らが耳につけた翻訳機には、確かにそう聞こえた。
「彼女?」
 どう見てもいるのは、この女性1人だけだ。
 男はまだ中に救助しなければならない人間がいるといって、炎上する建物の中に戻っていった。
「ヴィクトールさん!戻ってヴィクトールさん!」
 女性は布きれで包んだ何かを抱きしめたまま男の名を叫んだが、彼がここへ戻ってくることはなかった。
「カノンちゃん・・・ヴィクトールさん・・・」
 すべてを呑み込んだ燃え盛る炎を見ながら、彼女はその名を呼んだ。
「おいお前、女!」 
 銃を突きつけても、女性は虚ろな眼差しを向ける。
「この布きれの中身はなんだ?」
「・・・娘です」
「はあ?赤ん坊にしちゃ、小さすぎやしないか」
 女の両腕で抱えるほどしかない、布きれの中の何かは振れば水のような音が聞こえた。
「娘・・・なんです。私が殺しました」
 壊れた機械のように繰り返す女性の腕から布きれをひったくり、中身はなんだと開けてみたら。
「娘の・・・なんです。私が殺しました」
 抑揚のない声で女性はそう言い、男達は布きれの中にあったそれに絶句していた。
「あの・・・オブレール家の人々で生き残った方がいないか。あなた方はご存じありませんか」
 パライオン星のオブレール家。
 ネザエイシュアンにもっとも憎まれ、完膚無きまで叩き潰された一族の名前だ。
 その名前は悲劇の惑星パライオンという名前と共に、キルレシアンに伝わっていた。
「どうしてオブレール家の生き残りを探す?」
「私・・・生き残った方に、殺されたいのです。殺されてもう・・・終わりにして欲しいのです」

 オブレール家の生き残りはいないだろう、そう思われていた頃だった。

「私、大勢の人を殺してしまいました。娘もです・・・」
「お前がか?」
 どう見ても普通のおばちゃんにしか見えないこの女が、娘をここまで殺したには彼らには見えなかった。
 だとしたらこの女が殺したのではなく、別のそれなりの設備と腕を持った者がやったに違いない。
「素人技には見えないが、お前が本当に殺したのか?」
「はい。カノンちゃんもヴィクトールさん、ケインさん、ランデール家の皆さん。惑星セレナの星の方々。皆、私が殺しました」
 だからと彼女は虚ろな視線を、キルレシアンの者達に向けた。
「私はネザエイシュアンの生まれです。この星の人間です。だから、殺してください」
 お願いですと彼女は頭を下げた。
「本当ならば、オブレール家の生き残った方に殺されたいのですが」
「オブレール家の生き残りがいるのか、生憎と俺達は知らない」
「なら、代わりに私を殺してください。私はあなた方キルレシアンの敵の人間です」
 男達は互いの顔を見合わせ、この女は気が狂っているに違いないと判断した。
「気なんか狂ってはいません。正気です。娘も私が殺しました」
「じゃあ、殺してやるから一緒に来い」
「はい。お願いいたします」
 深々と頭を下げる彼女を見て、「やっぱり気が狂っているぜ、この女」と1人が呟いた。

 彼女とその”娘”は宇宙船団に連れて行かれ、機械技術が発展した星生まれ者達が自分の船に引き取った。

 キルレシアンの者に聞かれることに彼女は、翻訳機を通してだがとても素直に話した。
「それでいつ殺してくれますか?」
「ああ、もう少し話を聞かせてくれたらな」
「そうですか。お願いいたします」
 そのやり取りが何度か続いた。

 やがて彼らは再びネザエイシュアンに赴き、今度は別の意味合いで軍事関連研究所だけを襲撃していった。
「こいつらは連れて行くぜ」
「さあ来るんだ」
 男達は手分けして無事なそれらを運び出し、あるいは手を引いて飛び去った。
 中には襲撃される間に証拠隠滅を図り、自爆して果てた研究所もあった。
 だからといってそこで何をやっていたか、完全に消し去れたワケじゃなかった。
 もっともネザエイシュアンにいる多くの民には知らされず、むしろ巧みになにも知らないように隠された。

「あんたが娘と一緒に、こいつらの面倒を見てやってくれ。同じネザエイシュアン生まれだからな」
「分かりました」
 彼女は毎日培養液の中で眠る娘達に語りかけ、また幼い子ども達の世話に明け暮れた。
 娘達の頭部が出来たら、自分の髪を切ってでも頭髪を用意しようとした。
 身体が出来ると服を縫い、鋼鉄の身体を隠した。
 人工皮膚が出来あがり、機械仕掛けの眼球など各パーツが出来、人間らしい姿に少しずつ近づく様を見て素直に喜んだ。
「もう殺してくれと言うな。お前さんには、こいつらの世話があるんだからな」
「はい。そうですね」
 人生をどこか諦めきっていた彼女は、少しだけ微笑むようになっていた。

 やがて人工の発声器官を得た娘達や幼い子ども達のどちからも、彼女は「ハンナお母さん」と呼ばれるようになった。

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22



 その国に、
 その星に、
 その民族に、
 その宗派に、
 その家に、
 その親子関係に、

 ただ生まれついただけで、
 自らが望んだわけでもないことで、

 なぜ他者に、
 知っている者に、
 全く知らぬ者に、
 
 生か、死、

 それらを勝手に決められてしまうのだろうか。

 そして他者はどうして、
 時に容易く他者の生死を、
 その手で選択してしまうのだろうか。

 あまりにもその身勝手なまでに、
 愚かなまでに、
 まるで自らを神であるかのように、
 振る舞うのだろうか。
 それを当然の如く、思い、動くのだろうか。



「覚えていて・・・」
 伸ばされた枯れ木のように細いその手を、彼女は両手でそっと包んだ。
「最後の呼吸を終えるその瞬間まで、あなたが・・・」
 シワだらけの顔が、かすかに微笑む。
「あなたがこの愛おしい世界と共に・・・・」
 ハンナお母さん、彼女はその名を呼んだ。
「幸多かれしことを母は願っています・・・」
 涙を流すことの出来ない娘の分まで最後に流すように、彼女は大粒の涙を流した。
「そして・・・許されますように・・・・労ってもらえますように・・・」
 そのまま静かに呼吸を止めた。

 私が亡くなったら、この体はどこかに葬って欲しい。誰もが忘れてしまう、そんな場所でいいから。
 それでも花で埋もれた棺の中で、彼女はシワだらけの顔に笑顔を浮かべて眠っていた。
 集まった大勢の人々は彼女に最後のキスをし、永遠のお別れをした。
「ばーさん。あの世で会えたらいいな」
「ああ。会いに来てくれるよ、きっと」
「まあな。会いに来てくれる。あの人たちは」
「きっと会いに来てくれる」
 深く掘った穴の底へ棺は、丁寧に横たえられた。
「ここで見守っているからね、おばあちゃん」
「ゆっくり眠って、待っていてねおばあちゃん」
「静かに眠りな。ハンナ」
「ハンナ。あんたに静かな眠りがあらんことを」
 棺の上に土を掛け大地に隠した後、人々は彼女が好きだった樹の苗を目印代わりに植えた。
 それを離れた場所で見ていた黒髪の娘は、口の中で呟いた。
「可哀想な、でも幸せだった母さん・・・」
 泣きたいけれど、涙は出ない。そんな機能がこの目には、元もと作られていないからだ。
「アーヴィングの娘に、ネザエイシュアンに生まれなかったら、きっと幸せな人生を送ったはずだった」
 そしてきっと私も・・・。
 でも今となっては生き残った以上は、生き続けていこう。
 いつか私の愛する者達に、彼らに会いに行くために・・・・。



「ナタルお姉ちゃん。ハンナお母さんをボク達、ここで見守っているから」
「カーマイン」
 その名前どおり髪の赤い子どもは、猫を腕に抱いて微笑んだ。
「ナタルお姉ちゃん。もしオブレール家の人を見つけたら、ハンナお母さんに会わせてあげてね」
「いつになるか分からないわ」
 あなただって生きているか、それも分からないのに。
 見つけたとしてもここへ連れてこれるか、それすら約束できないのに。
「でも、もし見つけられたら、きっとハンナお母さんに声を掛けてくれるでしょう」
「そうね・・・」
 そうだといいのだけれど。
「だからボク、ここでお母さんを見守るから」
 まだ10にも満たないその子は言った。
「だからナタルお姉ちゃん。ここもお姉ちゃんの帰る場所だからね。ボク、ここでずっと待っているから」
 ボクが待ちきれなくても、きっとボクの子どもか子孫、誰かが待っているから。
「分かったわ。ありがとう」
「うん」
 出来ることならこの子の温もりを、この手で感じられたらよかったのに。
 もしあの頃と同じ身体に戻れたら、私はその時は許されるだろうか。

『・・・俺達のやったことすら、結局は誰かが、何かが食い物にするだけだ・・・』

『殺すな・・・いいか、もう誰も殺すな。人1人殺そうが、100人殺そうが・・・』

『どれだけ言い訳しようが、どれだけご大層な理由をつけようと』

『人殺しするヤツの言うことも、それを正当化するヤツの言うことも、片方にはどこまでいっても。ただの言い訳にしか過ぎないのだ』


 彼はハンナ母が特に好きだった蒼穹の空の下、毎日舗装されていない道を母に会うために歩いた。
 皆が空いた時間に歩き続けるその道はかなりすり減り、また舗装し直さないろいけないだろう。
「ねえハンナお母さん。オブレール家の人々、いつ来るかな」
 彼は毎日、眠る母親に話しかけた。
「ナタルお姉ちゃん。元気にやっているって」
 彼を含む”弟妹”達が年老いていっても、兄姉達は全く歳をとらない。
 だけどいつかオブレール家の生き残った人々が来たら、その時はみんな人間に戻るってことを信じている。
「ハンナお母さん。今日も会いに来たよ」
 すっかり年老いた彼は右手で杖をつきながら、曲がった背中に老猫を乗せやって来た。
「あれ?」
 今日はここの衣裳を着た人たちが、母の墓の前に背中を向けて立っていた。
「あなた方、どこから来なさった?」
 カーマインが声を掛けたら2人は振り返り、壮年にはまだ少しある年頃の男性達だった。
「ハンナさんに会いに来た」
 黒髪の方が笑顔を浮かべて言った。
「まあ、ちょっと遅かったけどさ。一応、顔を見せに来たんだ」
 茶色の髪の方も、白い歯をニッと見せた。
「あの・・・あなた方はまさか」
 ハンナお母さんが会いたがっていた、パライオン星のオブレール家生き残りのと言いかけたら。
「私達はもうお暇する時が来てしまったけれど」
 なぜだろうか。
 彼らの姿はどこか儚く見える。
「ハンナにちょっくら、今から会いに行ってくるからさ」
「ハンナお母さんに?」
 だけどお母さんはもう・・・。
「ああ。会って言葉を掛けてくるから」
「もっと早く分かっていりゃよかったんだろうけど」
「私達もいろいろとあったから」
 黒髪と茶色の髪の男性2人は同時に微笑み、
「あっ!」
 蒼穹の空へ白い光となって消えた。
「ハンナお母さん・・・」
 カーマインの目には見えた。
 青い世界でハンナがニコニコ笑っており、多くの人々が彼らに手を差し出す光景が。
「よかったね・・・ハンナお母さん・・・」
 やっぱりオブレール家の人々は、お母さんを迎え入れてくれたのだね。



 それはキルレシアンが、まだ結成された頃の話だ。
 ネザエイシュアン憎しのあまり、ネザエイシュアンすべての民の上に血の雨を降らせていた。
 被害者達が加害者に転落し、誰もが救いにもならず、誰もが救える手段もなかった。
 だからこの時代を狭間の時代、見捨てられた時代とも言う。

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21



 生まれたわが子が教会で魔法使いの素質ありか、なしかの選定を受けたとき、ありという判定を受けた親はほぼ3通りに別れた。

『私達が年老いて儚くなるその日まで、天命を受けて生まれたこの子を、私達の子どもとして大事に育てますという親』
 魔法使いとしての修練を積ますため、魔法使いたちのもとに通うが、基本的には自分の家で家族と暮らした。
 しかも親が亡くなって魔法使いの所に来ても、兄弟姉妹などがいるから家族と縁が切れなかった。

『いずれこの子の時が止められ、天命を果たすその時までそのままでいるのなら。ならば、この子は同じ天命の人々といるのがいいはずだ』
 生後間もないわが子を魔法使いたちに託し、子ども達は血の繋がらない彼等を親代わりに育った。

『ある程度子どもが大きくなって、やっぱり一緒にいられない子らを託しに来た親』
 親に捨てられたことが分からない子ども達は泣きながら帰る親を追い、振り払われても家まで帰った子もいた。
 結局みな、魔法使い達の元に戻ってきた。

『師匠がよく言っていた。親子の愛情も断ち切らなきゃいけないほど、魔法使いはお偉い存在なのかってね』
『子どもを・・・』
 バーソロミューにはショックだった。
 たとえどんな運命を背負った子でも、そんな簡単に手を離せるのか。
『人はけっこう無責任でね。これも天命と信じ育てる親に、そんな天命を受けるのは前世で悪い事をしたのだろとか。どうでもいいことを、ホントどうでもいいのに言ったりするんだ』
 先の見えない日々を生きる中で、どうでもいい言葉は不安を抱える家族を時に追いつめていった。
『だから、魔法使い達は皆、お互いを”兄弟姉妹”とか、”父母”などで呼び合い、一つの家族となっていった』
 捨てられていく子供が増えても、この子達も自分らの家族だから。
 自給自足の超弩級の貧乏がさらに貧乏になっても、皆が家族を食わすために一生懸命働いた。
『私は養蜂から酪農とか生活に密接したものだけじゃなく、師匠と共に覆面レスラーに金鉱掘り、カジノ潰しや賞金稼ぎなどいろいろやった』
『ヾ( ̄∀ ̄; おいおい』
『そういう意味では、あの頃もまた楽しかった』
 バーソロミューは思った。
 彼の親御さんとかその他の人々が、草葉の影で泣いたりしていなかっただろうかと。

 おおきくなったら
 When becoming big
 おおきくなったら
 When becoming big
 あの星の向こうへ
 To the other side of that star
 一緒に旅しに行こうね
 Let's go to travel together.
 宇宙船に乗って旅しに行こうね
 Let's go to travel taking the spaceship.
 鞄におもちゃと夢を詰め込んで
 The toy and the dream are packed in the bag.
 明日も明後日もみんなで一緒に
 Together in everyone tomorrow and the day after tomorrow
 旅に出る日を待っていようね
 Let's wait for the day of which it goes out to travel.

 シオンが急に口ずさんだその歌は、バーソロミューもここに来て何度も聞いた子ども達がうたう歌だった。
『アジェールでこの歌を子ども達に教え、一緒に歌ったりして寂しさを慰めた』
 元は母星パライオンで子どもの頃、いつしか歌われていた歌だったとシオンは説明した。
『明るい歌だな。子どもの夢いっぱいって感じで』
 ちょうど近くで子ども達が円になり、楽しそうにこの歌を歌っている。
『・・・だろう。でも本当はレクイエムだったんだ、この歌は』
『え・・・・』

 おおきくなったら
 When becoming big
 おおきくなったら
 When becoming big

『大きくなる前に殺されてしまった子ども達への、親が歌うレクイエムだよ』
 悲歌らしくないメロディーは、天に早く召されたわが子達を思い歌う、だからだとシオンは言った。
『生きていれば、生まれていればいくつになっていただろうか。私の姉夫婦には、双子の息子と娘がいた』
 ただ生まれる前に人工子宮センターごと破壊され、一緒に生まれるはずだった子らと殺されてしまった。
『だが、もう姉夫婦も甥も姪も、この世にはいない』
 だから哀しくて哀しくて、シオンはこの歌を口ずさんでいた。
『毎日笑ってもいけない、美味しい物を食べてもいけない。息をしていることすら、罪悪感を感じた』
 亡くなった人々はもう笑ったりも、何か食べたりすることも、平和な場所にいることすら出来ないというのに。
 こんな自分が、自分だけが、生き残ってしまった。
『生きていることが、罪だと思っていた』
『シオン』
『哀しいことにただ生きているだけでも、お腹が空くんだ。死にそうなぐらい哀しくても、お腹が空くとお腹が鳴って』
 そんな時そっと温かな飲み物が出されたり、ホカホカのパンが出されたりすると手を伸ばしていた。
『死んでしまった者は、思い出になっていく。とっても綺麗で優しい、いつも笑っている思い出になる』
 姉も義兄も、兄もあの日別れた人々も皆、最後に見せたのは笑顔だった。

『お願いよ。命終えるその瞬間が来るまで、決して自らの命を絶たないで』
 姉アリシアの最後の言葉があるから、自分は生きてきた。

「シオン。愛している。ずっと愛しているよ」
 兄ラフィールはこの言葉だけ残し、永遠に手の届かない世界に行ってしまった。

「みんなの分まで生きて・・・。この星に生まれて良かったって、みんな思ってたことをどうか忘れないでね・・・・」
 あの日別れに手を振り、笑顔で見送った先生や町の人々が告げた思い、それを守ることがせめてもの償いだと思った。
 生き残ってしまった事への贖(あがな)いだと。

「これから行く先々で知る出会いを信じて、生きている限り必ず巡り来る別れを恐れずにね・・・・」
 義兄は微笑んでいた。
 妻子を奪われても最後の最後まで恨み言一つ口にせず、ただ笑って自分達を生命とひき換えに守り抜いた。
 哀しい人、でも優しく強かった人だった。

『私は殺し合うのも、殺されるのももう嫌だ』
 だから困っている人たちを、殺されそうになっている人たちを救える、そんな存在になろうとアジェールで誓った。
『100%の正義は、1000%の迷惑、だ』
 自分達が正義だと信じ行ったことが、他の人からすればただの迷惑でしかない事だって知っている。
『100%絶対の感謝もない。満足もない。分かり合えることもない』
 どんなことにだって100%、なんてものはないのだ。
『そして100%絶対の許しもない・・・』
 ネザエイシュアンを許したワケじゃない、でもバーソロミュー達を嫌っているワケじゃないのと同じだ。

『バーソロミュー。どうして両親も誰もが禁呪で、ネザエイシュアンを滅ぼそうとしなかったか。その意味を探し続けてくれたら』
『シオン』
 自分達の未来を閉ざした憎い相手でも、皆誰もがそれでもネザエイシュアンの民にも、生きる明日があるとそう思ったから。
『私はこれからもずっと困っている人を見つけたら、迷わず手を差し伸べる魔法使いだよ』

 その後、シオンはバーソロミュー様の一件で存在を知った、キルレシアンの訪問を受けることになった。

 キルレシアンはなにもネザエイシュアン憎しだけで、日々動いていたワケじゃなく。
 ネザエイシュアンに母星を襲撃・破壊され、流離い人となった異星人達を保護し、数ある宇宙船に住まわせていた。
 ところが宇宙船の環境下では母星にはない、いろいろな要因から弱っていく宇宙人達も大勢いた。
『このまま死なせたら、こいつらに申し訳が立たない』
 そう思ったキルレシアンは、そういえばサルバシオン太陽系に、シオンという魔法使いがいたと思いついた。
 が同時にもし自分達が彼を頼れば、ネザエイシュアンがサルバシオン太陽系を放っておくわけがないというのも分かっていた。
 しかし彼等を乗せた宇宙船をサルバシオン太陽系に向かわせ、10ある星々を眺めていたら。
『あの星、故郷の環境と同じだ』
『一緒に暮らしていいかって、そう言って欲しい!』
『頼んだら、お願いだからって言ったら、でも受け入れてくれないだろうか』
 案の定10も星があれば似た環境の星がそこにはあり、弱っていた彼等は移住をキルレシアンに求めた。
 必死に懇願する彼等を前に、キルレシアンは困った。
 ネザエイシュアンはキルレシアンを、最大級の目の仇にしている。
 もしこの平和な星にキルレシアンが保護しただけとはいえ、彼等を移住させれば、ネザエイシュアンはこの星々を襲撃するだろう。
 平和に暮らしているこの星々の人たちを自分達と同じ目に、ようやく安住の地を得たあのパライオン星の遺児達からまた・・・・。
 どうすればいい、シオンとそう思ったときだった。
『呼んだか?』
 呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜んじゃないが、シオン様は宇宙船内に魔法で空間を越えてやって来た。 
 その後どうなったかというと。
 サルバシオン太陽系にある10の星へ保護された宇宙人達はそれぞれ移住し、元からいる人々共に平和に暮らしていた。
 その数はこの時代だけで千を越えると言われ、どれだけの星がネザエイシュアンに襲われたか分かる。

『このサルバシオン太陽系を我らは守ろう』
 ゆえにキルレシアンはサルバシオン太陽系を見守り続け、ネザエイシュアンが来た暁には盾になってでも守らないと誓った。

 やがて歳月は穏やかに流れ。
 リーザはここの者と一緒になり、独立して暮らすようになった。
 バーソロミューは相変わらず独身で、シオンとその家族の側で穏やかに暮らしていた。
 そこへかつての母星ネザエイシュアンの襲撃が起こり、彼は他なら似母星のせいで親友を喪う悲しみを味わった。
 
『きっとシオンもルーキスも、これもまた天命だと思ったのだと思います。だから、彼等の死を嘆かないでください』
 バーソロミュー様は自分達の所為でこうなったのかと嘆くキルレシアンに、赤ん坊のアディリシア様を腕に抱えながらそう言ったという。

 シオン様とルーキス様の死、そしてアディリシア様の降臨を経て、キルレシアンはただの暴力集団から変わっていった。
 ネザエイシュアンが憎いことには変わりがないが、今までのようにむやみにネザエイシュアンを襲うことがなくなった。
 それが後のEscape to freedomを生み出す下地になり、ネザエイシュアンに襲撃される星があれば助けに入り、住民を救う方向へ移っていった。

 しかし彼等とて、ジレンマを感じていた。
 より強力な武装を開発するネザエイシュアンに対抗するには、こちらもより強力な武装を開発せねばならず。
『憎しみの連鎖は、そう易々と断ち切れない』
 サルバシオン太陽系が開発する非殺傷武装、戦艦内部から生命体だけ瞬間移動させる新技術などにも注目していた。
 ここではまだ開発途中だったが、そのエリア全体にいるすべての艦隊のうち、自分達をのぞいた特定のを戦闘停止に追い込める技術があった。
『そもそも武装だけを解除すれば、いいのではないか』
 しかし単体でならいいが、戦場で武装解除なんかすれば、それはやられ放題を招くことになる。
 武器や武装、推進機関を奪えば相手はただの鉄の塊になるが、同時にそこに取り残された者の棺桶になるということだ。
 鼻つまみ者ネザエイシュアンからエネルギーもなにもかも瞬時に奪えれば、少なくとも他の星を襲撃するなんて愚かな行為は止まる。
 すべてを奪わずとも一部だけでも奪えば、特に宇宙船のエネルギーでも奪えれば。
 いや武器武装の開発に関わるエネルギー、物資だけでも奪うことがで切れれば。
 この宇宙は少しでも平和になるだろう。
 
 キルレシアンは開発を進めた。
 やがてその夢の開発が、ある星に最大級の悲劇をもたらす。

 が、その前にキルレシアンにいた、ある女性達の話をしようと思う。

テーマ : 自作連載小説 - ジャンル : 小説・文学